そういえばこのドラマのことを書いてなかったと気づいたので突然思い立って書く。セカンドシーズンが始まったことだし。
地球とは違う遠いどこかの惑星で繁栄している人類(つまり遠未来?)は労働を肩代わりさせるサイロンという機械を創造したが、あるときそれらは反乱を起こし、人類とサイロンの間に戦争が起こった。長い戦いのあとサイロンは自分たちの世界を築くために姿を消す。そして40年を経てサイロンは人類を殲滅するために行動を開始した。
12のコロニーは同時多発攻撃によって一瞬にして破壊され、生き残った人類もサイロンの地上部隊によって殺戮された。退役直前だった空母ギャラクティカは宇宙船で脱出したわずかな船団を率いて伝説の惑星、地球を目指す。
ベースになっているのは70年代に製作された『宇宙空母ギャラクティカ』。『スター・ウォーズ』の二匹目のドジョウを狙って作られたB級ドラマで、特撮(SFXでもCGでもない)のチャチさや登場人物の能天気さにあまり高い評価も得られないまま短命に終わった。しかし設定自体はなかなか魅力的で熱心なファンがいたらしく、2003年にリメイクではなく”リ=イマジニング(再創造)”され、新シリーズとしてよみがえった。子供向けだったオリジナル・シリーズとは異なり登場人物もストーリー展開も完全にアダルト向けで、単なるアクションSFではない濃厚な人間ドラマに仕上がっている。とくに大きな変更は人間と見分けのつかないサイロンが人類の中に紛れ込んでいるという設定。誰がサイロンなのかわからず、ひょっとすると自分がそうなのかも知れないという恐怖が重苦しい雰囲気に拍車をかけている。
とにかく目立つのが暗さ。これでもかっていうくらい暗い。メインの舞台になるのが戦艦だから明度的に暗いってのもあるんだが、ストーリーも登場人物もとことん暗い。うわあ。これが911後のアメリカだ。
たとえば大統領。最初の攻撃で政府の要人がみんな死んでしまい、唯一残った閣僚の教育庁長官が急遽大統領に任命されたため、経験も権威もない。しかも乳癌をわずらっていて余命わずかという設定。
ギャラクティカの艦長。老朽化したギャラクティカは博物館に改装中で、艦長もそれにあわせて退役するはずだった。そのセレモニーを直前にしてコロニーが滅亡し、艦とともにやむを得ず現役に復帰する。息子は二人とも戦闘機のパイロットだったが、次男の死を巡って長男と確執がある。
ギャラクティカの副長。艦長の古い友人で、名誉職的に退役直前のギャラクティカの副長になった。酒びたりで乗務員の信頼はいまひとつ。ギャラクティカで人類の生き残りを率いるという大役にビビっている。
サイロンの専門家とされる科学者。女癖が悪く、美貌の人間型サイロンに操られて重要な国防上の情報を漏らしてしまう。ギャラクティカに乗船したあともしばしば彼女の幻影を見て人類を裏切る行為を繰り返す。
ほかにも自分がサイロンと知らないままギャラクティカに乗り込んでいる軍曹とか、恋人をなくして自暴自棄な戦闘機パイロットとか、相手をサイロンと知りつつ愛してしまう兵士とか、登場人物それぞれが重い宿命を背負い、それが絡み合ってストーリーが展開していく。
戦力も数もサイロンのほうが圧倒的にまさっているので人類はひたすら逃げるしかない。そういう意味ではある種のホラーやサスペンスのような「追われる主人公」の系譜といえる。そして暗いなあ、といいつつ見てしまうのは、絶望的な状況にあってさえ何ができるのか模索し、成功の可能性があればそれに賭ける登場人物のメンタリティのせいだろう。飲んだくれの副長さえ、ときには決断に踏み切るのだ。頓珍漢なこともあるけど(笑)
面白いのはSFドラマにありがちなファンシーなガジェットを持ち出していないこと。たとえばコスチュームは現代ととくに違っていない。恒星間飛行ができるほどの技術があっても癌は死病だし、銃で撃たれた怪我を魔法のように治す医療器具はない。テレビ電話もないし本物と見まごうようなホログラムもない。サイロンがコロニーを攻撃するとき使うのは核爆弾だ。このあたりは製作者側が、あまり現代とかけ離れたコスチュームやSF用語を持ち出すと一般の視聴者がついてこられないと考えたものらしい。私なんかは物心ついたときからSF・ファンタジーにドップリ漬かっていたので、どういうガジェットでも(たとえ時空を旅する電話ボックスでも)その世界の設定として受け入れるのだが、そういうヘンな嗜好がない人は自分の身近なものとあまりにかけ離れているとついていけない・・・のかな?
登場人物はみんなひとくせもふたくせもあり、それぞれに魅力的なんだが、個人的には艦長とパイロットの「スターバック」(コールサイン。本名はカーラ・スレイス)に注目。あとチョイ役の、艦橋でコンピュータなどを担当している技術士官(?)のゲータ君もお気に入り。
最近のアメリカのSFドラマ、『LOST』はなんだかグダグダでSF以前にドラマとしてどうよ、という状況だし、『Heroes』はファーストシーズンはまあまあだったのにセカンドシーズンでガクっとお子様向けになってしまい、大人向けドラマとしては『ギャラクティカ』が一人で頑張ってる状況だ。すでにUSでは最終シーズンを放映中で、ヘンに引き伸ばしてダレるよりも潔くていい。このまま陰鬱路線で進んでくれることを期待しよう。